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1階のみの耐震補強は危険

1階のみの耐震補強はしてもよいのか?

診断の会では、会員達のあいだで、耐震診断・補強に関する疑問、質問が交わされています。先日あった質問で、1階のみの耐震補強はしてもよいかというものがありました。ちなみに、その物件の2階のX方向の評点は0.46と、大地震時に倒壊の恐れがあることを示していました。屋根は軽いので2階は耐震補強をしない方向で考えてほしいと施主に言われているようです。耐震リフォームに厳しい予算はつきものですが、はたして、その施主の要望どおりにしても大丈夫でしょうか?その時、設計者はどのように対応すべきでしょうか?

今回の質問に対し、二人の方から回答がありました。一人目は技術顧問の水上氏から、1階のみの耐震補強は大変危険ですとの回答をいただきました。二人目は当会役員の中井氏から、2016年に発生した熊本の震災被害の写真を例に、2階部分のみの倒壊もあり得ること。また、そうなった場合、復旧が困難になるとの指摘がありました。

これら2つの観点から、そのようなリフォームにならないように施主を説得する必要があります。設計者としては最大限、施主の意向に沿いたいところですが、命を守ることはそれ以上に大切です。

なぜ1階のみの耐震補強が危険なのか?

1階のみの耐震補強が大変危険である理由として、1階にくらべ2階の剛性率が極端に低いと、地震動が2階で増幅され、1階に悪影響を与えるという現象がおこることがあげられます。これは鞭振り現象といわれ、各階の剛性を急激にかえるべきでない所以とされています。

通常、2階建ての木造住宅では耐力不足でないかぎり、そういった現象の影響は微小で、一般診断法では剛性率を計算しなくてもよいとされています。また、精密診断法においても、剛性率による低減があるものの、殆どの場合、低減されることがありません。そのため、2階の剛性は過小評価されがちなのですが、2階を耐力不足の状態にしておくことが非常に危険であることは感覚として持つべきでしょう。

倒壊しなければよいというわけではない

耐震診断法では、大地震に対して、倒壊する危険性の有無を判定するのですが、倒壊しなければよいというわけではありません。倒壊というと、形あるものが崩れ落ちるイメージがありますが、大きく変形したまま戻らなくなってしまう状態もまた倒壊といいます。このような状態での継続使用はありえません。

建物の2階に大きな変形が加わった時、屋根が無事であるわけもなく、風雨から守る役割を果たせなくなくなること必至です。また、大きく変形した2階が1階に与える影響は、想定外のもので、1階がその後も安全である保証は全くありません。耐震補強をしたももの、結局は建物の使用中止を余儀なくされ、復旧コスト、その他経済的なダメージに襲われます。

倒壊の可能性の有無を基準とするのではなく、大地震後も使用を継続できるかどうかのイメージをもって、設計者は耐震設計する必要があると思います。評点1.5以上の耐震補強計画はオーバースペックではないという意識が大切です。


運営担当 周山によるブログです。

診断の会で学んだことを皆様と共有したいと思いはじめました。2週間に一度配信する予定です。

主に、これから耐震診断を学び、専門的な知識を得て、スキルアップをめざす建築士の方に読んでいただけらたと思います。